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福井地方裁判所 昭和31年(行モ)1号 決定

申請人 三ツ井市松

被申請人 美山村村長

主文

本件申請を却下する。

理由

申請代理人は「申請人を原告、被申請人を被告とする当庁昭和三十一年(行)第一号急施事件に関する議決であることの確認請求事件の判決確定に至るまで、被申請人は足羽郡美山村議会が、昭和三十一年一月六日可決した別紙議決事項書記載の村分立に関する議決につき、村議会の再議に付する一切の措置をしてはならない。」との趣旨の命令を求め、その理由として、「足羽郡美山村は旧大野郡上味見村、下味見村、芦見村、羽生村、足羽郡上宇坂村、下宇坂村の六ケ村が合併し、昭和三十年二月十一日発足した新村で被申請人は同村々長であるが、同村議会は昭和三十一年一月六日開かれた同村臨時議会に於て、申請人外六名の村議会議員が急施事項として発案した村の分立に関する緊急動議が成規の手続を経て採択上提され、適法な審理の末、別紙議決事項記載の通り多数決により分村が可決された。ところが、被申請人は、『右議決は客観状勢から見て、必ずしも緊急事件とは認め難いのに前記同村臨時議会に於てこれを緊急事件として審議議決したもので、右議決は明かに法令に違反した議決と認められるから、地方自治法第一七六条第一項、第四項に則り再議を求める』との理由で、同月十三日附を以つて、右議決を再議に付す旨の処分をなし、その再議のため、一日同月十六日午前十時美山村役場に臨時議会を招集する旨を告示した。その後右臨時議会の招集は取消されたのであるが、右臨時議会に付議されようとした再議に付する件は留保の侭となつていて、何時議会が招集されるかも知れない状態である。けれども前記議決は地方自治法第一〇二条第五項に則り為されたもので、その発案者は村議会議員であつて、村長ではなく、従つて附議事項が急施を要するものであるかどうかの認定は発案者である議員の権能に属し、発案者でない村長は、かかる認定の権能を有しない。(昭和二十八年自行行発第八八号千葉県総務部長宛行政課長回答参照)。従つて村長である被申請人がこれを急施事項でないと認定することはその権限を踰越したものであつて、右認定に基き再議に付する処分をなすことは許されない。よつて申請人は被申請人に対し、当庁に昭和三十一年(行)第一号急施事件議決確認請求事件の本案訴訟を提起したのであるが、万一右再議のための議会が開会せられ、右議会に於て前記議決が取消されるときは、右分村議決による分村により利益を享受し得べき数千の村民が不測の損害を蒙るから、申請人は被申請人に対し、再議に付することに関する一切の措置を停止する趣旨の命令を求める。」と謂うのであつて、疎明として、甲第一号(議案第七〇号村の分立についてと題する書面、村の分立に伴う財産処分についてと題する書面、提案理由と題する書面)、第二号の一(議会通知の封筒)、同二(議発第一号、一月第二回臨時議会招集についてと題する書面)、同三(告示第一号、昭和三十一年一月十六日午前十時一月第二回臨時会を美山村役場会議室に招集すると題する書面)第三号証の一(議会通知の封筒)、同二(告示第二号書面)、同三(美議発第四号書面)を提出した。

案ずるに、本件において、申請人が、その執行の停止を求めている処分とは、美山村議会のなした別紙議決事項記載の村分立に関する議決を、地方自治法第一七六条第四項に基き、さらに同議会の再議に付する旨の村長たる被申請人の措置をさすものと解すべきところ、かゝる措置は、特定の法人格に対し、その権利義務につき直接変動を生じさせる行政処分とはいえないから、行政事件訴訟特例法にいう行政庁の処分に当らない。それ故かゝる措置の実施は同法にいう処分の執行とはいえず、従つて、同法第一〇条第二項所定の処分の執行により生ずべき償うことのできない損害を、申請人が蒙むるべきいわれは全くないから、本件申請は不適法であつて却下を免れない。

なお、念のためにいえば、本件申請が、村長たる被申請人に対し、その職務行為について不作為を命ずる仮処分を求めているものとしても、同法第一〇条第七項の規定に照らし、その許されないことは明らかであつて、前同様不適法として却下を免れない。

よつて、主文のとおり決定する。

(裁判官 神谷敏夫 市原忠厚 海老塚和衛)

(別紙省略)

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